東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)23号 判決
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〔事実〕<前略> 一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和二十五年八月三十日特許出願にかかる特許第二一〇六六五号「鉄筋軽量コンクリート床版」の特許権者であるところ、昭和三十五年一月二十二日被告から本件特許の無効審判の請求があり、昭和三五年審判第三三号事件として審理された結果、昭和四十年十二月十四日、「本件特許を無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、昭和四十一年一月十七日原告に送達された。
二 本件特許発明の要旨
鉄筋コンクリート床版を軽量コンクリートにより構成し、その釣合鉄筋比以下の鉄筋でこれを補強することを特徴とする鉄筋軽量コンクリート床版の構造。
三 本件審決理由の要点
本件特許発明の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、いずれも本件特許発明の出願前に国内に頒布された刊行物である「混凝土の新知識(材料篇)」第七五頁より第七七頁(以下「第一引用例」という。)および「逓信省海事部、鉄筋混凝土船舶に関する調査」第七六頁より第七七頁(以下「第二引用例」という。)には、少なくとも、鉄筋コンクリート構造物を火山砂利を骨材とする軽量コンクリートで作るという着想が記載され、また、昭和十年四月二十五日建築学会発行「コンクリート及鉄筋コンクリート標準仕様書、鉄筋コンクリート構造計算規準・解説書」(再版)第二〇四頁(以下「第三引用例」という。)には、鉄筋コンクリート床版の鉄筋は殆んど常に釣合鉄筋比以下であることが記載されているが、軽量コンクリートは、その強度が小であるため本件特許発明の出願前においては構造用とすることが法規上認められていなかつたことは審判被請求人(原告)の主張するとおりであろうが、第三引用例の記載のように鉄筋コンクリート床版の鉄筋はほとんどの場合釣合鉄筋比以下であり、鉄筋が釣合鉄筋比以下であるということは、その強度がコンクリートの圧縮強度ではなく、鉄筋の引張強度に支配されるということで、コンクリートの強度が大きいということは実際上さして必要でないということを意味することは当業者の当然に了承しうるものなる以上、第三引用例記載の事柄と第一引用例および第二引用例所載の着想とを合わせ考えると、本件特許発明のように、鉄筋コンクリート床版を釣合鉄筋比以下の鉄筋で補強して軽量コンクリートで作ることは当業者の容易に想到しうることと認めざるをえない。審判被請求人は、本件特許発明は、床版は釣合鉄筋比以下で作られることが多いから、軽量コンクリートに通常つきものの低強度という欠点が現れにくいという事実と、軽量コンクリートは、そのヤング係数が小であるため、その釣合鉄筋比の値が普通コンクリートと大差ないという発見とに基づくものであつて、軽量コンクリートで鉄筋コンクリートを作る場合の最も有利な使い場所と使い方とを明らかにしたものであるから、容易に発明しえたものでない旨を主張するが、床版では軽量コンクリートの低強度という欠点が現れにくいということは、前記のとおり本件特許発明の出願前に頒布された刊行物に記載された事柄から容易に了解しうることであるし、軽量コンクリートの釣合鉄筋比が普通コンクリートのそれに近いということは、使用するコンクリートが変わることによつて釣合鉄筋比がどのように変化するかは実験と計算とにより簡単に求められるということと、本件特許発明においては、使用する軽量コンクリートの性質について、何らの限定がないこととよりみて、格別の意義は認め難く、また、軽量コンクリートで鉄筋コンクリートを作る場合の最も有利な使い場所と使い方といつても、その内容は、床版において、その釣合鉄筋比以下の鉄筋で補強して使うというにすぎず、この点に発明が存在しないことは、すでに述べたとおりであるから、結局、審判被請求人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件特許発明は、第一引用例ないし第三引用例に記載された事柄に基づいて当業者の容易に発明しうるものに相当し、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第一条の発明を構成しないから、その特許は、同法第五十七条第一項第一号の規定により、これを無効とすべきものである。<後略>
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決決が、本件特許発明をもつて、各引用例から当業者の容易に発明しうるものであるとした点において、判断を誤つたものである旨主張するが、この主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、本件特許発明の要旨が本件審決認定のとおりであることは、本件特許公報により明らかなところ、
(一) 第一引用例および第二引用例には、本件審決認定のとおり、鉄筋コンクリート構造物を火山砂利を骨材とする軽量コンクリートで作るという技術思想が開示されており、
(二) 第三引用例には、鉄筋コンクリート床版の鉄筋比は、ほとんど常に釣合鉄筋比以下であることが記載されているが、このことは、鉄筋床版の強度は、コンクリートの強度ではなく、鉄筋の強度によつて左右され、鉄筋比が小で、コンクリートの強度はさして必要でない場合もあることを意味することは、当業者の容易に理解しうるところと認めるを相当とし、
しかも、鉄筋コンクリート構造物を作る場合、その重量をなるべく小さくすることが望ましいことは、いうまでもないところであるから、本件特許発明のように、普通コンクリートに代えて軽量コンクリートを使用し、かつ、その鉄筋比を釣合鉄筋比以下のものとすることは、右(一)および(二)の事実、すなわち、第一引用例、第二引用例および第三引用例に開示されたところから、当業者の容易に推考しうるところというを相当とし、これを左右するに足る証拠はない。
原告は、第一引用例における軽量コンクリート建築物には鉄筋軽量コンクリート構造物を含むかどうか明らかでなく、第二引用例の鉄筋軽量コンクリート船が果して波浪にも耐える耐力があつたかどうかも明らかでない旨主張するが、そのようなことが、本件審決が第一引用例および第二引用例の記載を総合し、少なくとも、鉄筋コンクリート構造物を火山砂利を骨材とする軽量コンクリートで作るという着想が示されているとした認定に、いささかの消長を及ぼしうべきものでないことは、主張自体に徴し明らかである。原告は、また、第三引用例に示された計算基準は軽量コンクリートには適用すべきものでない旨主張するが、この主張もまた理由のないことは、前記(二)において説示したところから明らかである。なお、原告は、本件特許発明は、軽量コンクリートを原料として鉄筋コンクリート構造物を作るということが一般に危険視されていた当時において、床版を選んで。軽量コンクリートの適切な用法を求めたものであるから、各引用例から容易に発明しうるものとすることは誤りである旨主張するが、本件発明に至る経緯が仮にそのようなものであつたとしても、このことは、前記掲記のとおりの技術内容をその要旨とする本件特許発明そのものが、各引用例から当業者の容易に推考しうる程度のものであるかどうかとは直接のかかわり合いのないことであることはいうまでもないところであるから、原告の右主張も理由がなく、もとより採用しうべき限りではない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 武居二郎 布井要太郎)